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名古屋高等裁判所 昭和35年(ネ)29号 判決

控訴人 国

国代理人 林倫正 外二名

被控訴人 住田一義

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人両名の平等負担とする。

事実

各控訴代理人は夫々原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求めた。

被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は左に附加する外原判決事実摘示のとおりであるから、ここに之を引用する。

各控訴代理人の主張、

本件配当要求可否の岐れは、配当要求債権者が仮差押債権者のために発生した相対的効力である処分禁止の効力を享受できるか否かの点にかかつている。

そこで検討するに、本差押による処分禁止の効力も相対的であると云うことは判例、学説で確立されているにかかわらず、差押による処分禁止の効力を配当要求をした債権者も享受できることは判例(大審院昭和九、一二、一一、判決)の示すところであり学説も支持している。之は強制執行につき平等主義を採る現行法の下では差押債権者は配当要求債権者の「執行上の一種の代理人」として自己のためと同時に配当要求者のためにも執行上の追行をするものであるとの考方である。

この考方は仮差押についても次の理由により妥当する。

(1)  仮差押と本差押との関係は有力な反対論(吉川大二郎、保全処分の研究九七頁以下)があるが、仮差押の効力は当然本執行に転換されると云う「転換の理論」は判例通説の採るところである。

すなわち仮差押は「強制執行ノ起程第一ニ於ケル処置」をするものであり他日強制執行手続が進められると「此執行ニ於ケル差押ノ効力ハ曩ニ右ノ処置ヲ為シタル時ニ之ヲ生ジタリトスルモノ」(大審院昭和一〇、五、七、判決)である。このようにして、仮差押は仮に差押するものであり、仮差押における処分禁止の効力は差押における効力なのである。

(2)  もし純粋に執行保全のために処分禁止を考えるならば、処分禁止の仮処分を認めるだけで事足りるのであり、ことさらに金銭債権につき仮差押制度を設ける必要はないのであろう、本執行への転換のためにこそ仮差押の存在理由がある。

(3)  そうとすれば仮差押自体は仮差押債権者自身のために行われるとしても(仮差押は重複することができる)それが本執行の起程第一の処置であることからして、いわば潜在的に本執行に転移した場合の配当要求者のためにもされているというべきである。そして右仮差押債権者の潜在的代理人的地位は、仮差押が現実に本執行に転換されたとき顕在化し、本執行に転換された仮差押の処分禁止の効力を配当要求債権者もまた享けるに至ると解すべきである。

(4)  他面かように解しても、仮差押の目的物の第三取得者は仮差押目的物について、その価値全部を失うおそれのあることは第三取得者として覚悟すべき立場にあるから不測の損害を蒙るとは云えず、又債務者は何等不利益を蒙らないことは云うまでもない。

以上のとおりであるから配当要求債権者が仮差押債権者のために発生した相対的効力である処分禁止の効力を享受できるものであり、このように解してこそ強制執行法上の基本原則である平等主義に合致した公平な結果をもたらすことができるのである。

従つて本件控訴人等の配当要求は許さるべきであり被控訴人の本訴請求は理由がない。

立証関係、

当事者双方の立証関係は、原判決摘示のとおりであるから、ここに之を引用する。

理由

一、原判決別紙目録記載の本件不動産は元柴田芳一の所有であつたところ、被控訴人は昭和三十年六月二十四日右柴田に対する債権に基き右不動産に対し仮差押をしたこと、

右仮差押後の昭和三十年七月五日右柴田は本件不動産を神戸鉉に売渡し、之が所有権移転登記を経由したこと、

右譲渡後の昭和三十年十月七日被控訴人は右柴田に対する被控訴人主張の債務名義に基き、その主張の如く名古屋地方裁判所に対し本件不動産について強制競売を申立て、競売開始決定より競落許可決定までの手続がなされたこと、

控訴人名古屋市及び控訴人国は被控訴人主張の如く夫々右柴田に対する租税債権に基き名古屋地方裁判所に右競売代金に対し配当を要求し、被控訴人、控訴人等のために配当表が作成されたこと、

以上の各事実は当事者間に争がない。

二、しかして控訴人名古屋市主張の、

(1)  被控訴人は本件不動産仮差押の被保全債権と別個の債権に基き本件強制競売を申立てている。

(2)  被控訴人が本件強制競売で要求している債権中には右柴田が本件不動産を右神戸に譲渡した後の遅延損害金が包含されているから、この分の要求は不当である。

(3)  本件不動産に対する前示仮差押命令は右柴田に対し仮差押執行後四年間も送達されなかつたことは債務者の異議権、起訴命令申立権は無視された結果となり看過し難い瑕疵である。

との各点についての当裁判所の判断は原判決説示のとおりであるから、ここに之を引用する。

三、そこで本件控訴人等の配当要求の適否について判断することになるが、争点は要するに、本件仮差押不動産が債務者である柴田から第三者である神戸に譲渡された後右仮差押不動産につき仮差押債権者であつた被控訴人が右柴田に対する債務名義に基き本執行である強制競売に入つたところ、控訴人等から右柴田に対する債権に基き配当要求がなされた、この配当要求が、かかる場合許されるか否かと云うことである。

およそ、仮差押でも本差押でも、之がなされた物件については債務者は処分を禁ぜられるが、その処分禁止の効力は、いずれも相対的であることは控訴人等の主張のとおりである。そして本差押があつた場合には債務者の差押物件処分後においても、右債務者の債権者は本差押の処分禁止の効力を享受して配当要求をすることができるとの判例、学説の見解については当裁判所も考を同じくするものである。

しかしながら本件の場合のように仮差押中に仮差押物件が第三者に処分された場合の配当要求は仮差押効力の本執行への転換の理論を考慮するも許されないものと解する。すなわち、

仮差押は執行保全のためになされるものであり、本差押は執行そのもののためになされるもので本来異質的のものである。しかして仮差押効力の本執行転換の理論は、差押債権者が後日債務名義を得れば仮差押は、もともと執行保全のため処分禁止の手続が執られていたわけだから、その執行のために改めて処分禁止の第一歩である本差押を重ねて執る必要はなく仮差押を本差押に移行させて本執行を続行することを得させると云う考方に出ているものであるから、右理論を楯として元来異質の仮差押がなされている時期を本差押があつたと同様に見て仮差押物件が第三者に譲渡された後の本執行に、右譲渡前の所有者に対する他の債権者の配当要求を許すべきでないと解せられる。

右の如く解すれば平等主義に副わず仮差押債権者が仮差押物件から独占的に弁済を受けることになるが、本差押が行われていないにも拘らず、仮差押債権者の仮差押中何等の処置にも出なかつた他の債権者のため、仮差押物件が第三者に処分された後までも平等主義を貫かねばならぬと解すべきではない。

結局どんな見地からも、かかる債権者に対し配当要求を許すべきことは首肯せられない。

四、しからば控訴人等の本件配当要求は許されないことが明らかであるから控訴人等の各配当加入を認めた本件配当表は被控訴人主張の如く変更すべきであり被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。

五、よつて右と判断を同じくする原判決は相当であつて本件各控訴は理由がないから之を棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に則つて主文のとおり判決する。

(裁判官 坂本収二 西川力一 渡辺門偉男)

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